第四回
「深くてサラリとした友情」
羽田に向かうタクシーの中でも、みさとサンは迷っていた。
同じ大学の先輩と、実はみさとサンの恋人が結婚したのだが、別れたのだという。去年の秋のことらしい。
親友の久美からメールが入ってきたのが、去年の年末に近いころ。
でも互いにその話題には触れないままになっていた。
今思い出すと、みさとサンと先輩、そして彼は、3人で一緒に同じ力で手を握り合い、きれいな円を描いていたのではなかったか・・・ゆるぎない均衡のとれた関係だったと、今は思える。
他の友人たちからは三角関係と思われていたとしても、実は角張ったこととは無縁の球体だったのだ。
でもそれは、社会の標準的な規範では理解を超えることだったのだろう。
3人の絆の中にいたみさとサンは、もちろん2人の結婚式のスピーチもしたのだが、2次会の席で、クラスの友達から
「残念だったわね。彼のこと取られてしまって」
という言葉に、他人にはそんなふうに見られてしまうのかと、ひどく応えてしまった。
それがきっかけというのでもないのだが、10年も過ぎた今では、年賀状のやりとりくらいになっていく。
それも仕方のないことではあった。
仕事を始めてからみさとサンは、いやおうなく大人になったのかもしれない。
つまり、意識して自分を明かさない人になっていったのだ。
そして、仕事に夢中の、上司からも信頼を得る、けっこう使える人に育ったのだと思う。
シートベルト着用のアナウンスが流れ、そろそろ福岡空港に到着する。
まぁ考えてもしかたがないことだ。と、みさとサンは思った。
「みさとです。6時までの予定で会議があって福岡に着きました。時間があればお食事ご一緒にいかがですか。ホテルにチェックインしたら、こちらからお電話します。では後ほど」